| 作者 / written by | 神保哲生 |
|---|---|
| リリース年 / year | 2016 |
| 出版社 / published by | 光文社 |
作品レビュー
2012-13年に発生した所謂PC遠隔操作事件についてのジャーナリスト神保哲生による渾身のレポ。正真正銘のサイバー犯罪に関するノンフィクション本としてCyber Crime Movie loversならずとも必読の一冊、ただし600頁超のボリューム…。
あらすじとサイバークライムノンフィクションのポイント
- 2012年から2013年にかけて起きたパソコンの遠隔操作事件の発生、中心となる片山容疑者、そして捜査する警察について掘り下げた本格ノンフィクション
- 著者は犯人逮捕前に自分の番組に片山氏を呼び警察・検察の横暴や人権無視を問題視していた(被疑者側に立っていた)という自戒もありそう
- 当時のサイバー犯罪操作、デジタルフォレンジックの苦労がうかがえる歴史的資料としても面白い
- 最後はドラマのごとく自らリスクを犯してしまう犯人…
遠隔操作事件とは?
この事件での”遠隔操作”とは、犯人が送り込んだ悪意のあるプログラムによって被害者のパソコンから犯罪予告が書き込まれた、というもの。
内容が殺害予告等だったため警察が投稿者(つまり被害者)を誤認逮捕し、真犯人がそれを指摘したため大きな騒動となった。
ちなみにそのプログラムは2ちゃんねる経由でダウンロードされたよ。
当時を知る人も知らない人も、インターネット(犯罪)の歴史として見るのもありですね。
映画でも小説でもないけどPentagon
Total : 20 / 25
- drive the story, involvement / penetration : 5 ただただサイバー犯罪について、満足
- technical breakthrough, fresh ideas / hack : 4 余り明かされていない部分も感じるが警察側の調査の限界等かなり貴重な情報(当時)、と歴史的資料としての価値
- hacker description / report : 4 リアルな犯罪者、世代としての分析は一理(だけ)あり
- gadgets / artifacts : 3 特に七つ道具的なものは出てこないが監視カメラとスマホでしょうね
- other cinematic techniques / misc 4 刑事訴訟・裁判プロセスに力が入っているのは著者の問題意識によるものだがこの好みは分かれるかも
様々な点で特異な事件である通称・PC遠隔操作事件。malwareによる偽装業務妨害と警察への挑発、捜査の難航と保釈、そして致命的なミスによる逮捕。
メデイアの報道のされ方という意味では、これ以上の事件はサイバー犯罪ではしばらく出てこないのではというほどの注目度があった(しかし人々はどんどん忘却していく)記憶だが、さてサイバー犯罪史における視点はどうなるか、それを考える上でも重要な事件。
このノンフィクション本については、事件それ自体も注目に値するのだが要素を挙げるとすると、
- 警察に挑戦したサイバー犯罪と捜査の難航、そして劇的な結末
- 容疑者に対するメディアの過剰報道、そして神保哲生(筆者)による容疑者擁護という反省
- 事件を生んだ日本のインターネット文化と容疑者のパーソナリティ
などになるかなと。
恐らく本書を書く強い動機になったのは#2だが、メディアが犯人扱い→一部メディアが人権無視と擁護→やっぱり犯人だった、という流れは特異。
サイバークライム分析の視点から
著者やメディアの当時状況はCyber Crime Movie Researchersの本筋とは少しそれるのでサイバークライム関連の描写を評してみる。(なんか書き方がかたくなるノンフィクションの話)
とにかく、本当の事件を扱い当時の操作状況を描いてくれているので重要作品と断言したい。
日本だと全国区で注目され報道されたサイバー犯罪、というのは非常に少なくWinnyを含めるいくつかの事件しかない。かつ、この事件は犯人が明確で本人による映像もあり、なぜ社会に対してサイバー犯罪が行われるのかを考える上で示唆に富んでいる。
- 2ちゃんねる前の時代のネット文化、片山容疑者のパーソナリティのでき方、はじまりの事件、エスカレートする行為、iesys.exeの作成
- 法執行機関としても法整備に加え、2010年代にはある程度デジタルフォレンジックのツールや技術が浸透し、コンピュータサイエンス的に事件を立証できるようになりつつあった時代
それぞれの時代で成立するサイバー犯罪はまさに時代の反映と言えて、サイバークライムを成立させる技術的条件や流行がベースとなっているのがわかる。Twitterを始めとするSNSがサイバークライムの中心に移行するのはその後だし、最近は社会に恨みを持ちコンピュータに詳しい人間による犯行というペルソナが成り立ちにくくなっている気もする。
ちなみに本事件が警察のプライドが傷ついたのは言うまでもないが、その後官民協働でのサイバー犯罪防止・捜査の能力が大きく上がり2020年代のサイバーセキュリティにつながっているという点も見逃せない。本の中でもYahooによるファインプレー(あえてアカウントは生かして泳がせた)が書かれているが、プラットフォーマーと捜査機関が協力して事件を解決するというのはもはや日常となっている(と思う)。
プラットフォーマーも警察も苦手な人には辛い時代だが操作機能の向上は誰もが認識しておく必要がある。
まとめ(こんな人におすすめ)
- 実際のサイバー犯罪事件と捜査に興味がある
- PC遠隔操作事件とか2にゃんねるから感染した事件とか聞いたことがある
- 検察/警察やメディアによる冤罪や捜査に問題意識がある
- iesys.exeを作っていた
当時の状況を知るlinkたち
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1406/01/news008.html

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